『舟歌 バルカローレについて』

 

≪舟歌というジャンル≫

 

音楽の世界には、舟歌というジャンルがあります。

 

舟歌とは、もともと船頭が舟をこぐのに都合の良い調子で口ずさむ歌であったと考えられ、このような民謡や労働歌としての舟歌には、ロシアの「ヴォルガの舟歌」、日本の「最上川舟歌」などがあります。

 

私は小さい時からなぜか「ヴォルガの舟歌」が好きでした。

男声合唱の土臭い力強さがなんとも言えず好きだったのです。

 

そういえば、映画「レ・ミゼラブル」で囚われの身のジャンバルジャンが大きな船を一人で引っ張るシーンのところで、私の頭の中には「エイ、こーら」というあの「ヴォルガの舟歌」のメロディーがずっと流れていました。

 

クラッシック音楽の「舟歌」は、メンデルスゾーンの曲「ヴェニスのゴンドラの歌」のように、ヴェニスのゴンドラを表す性格小品(キャラクターピース)の1つです。

 

8分の6拍子・8分の9拍子といった複合拍子で、低音部でやさしく、ゆったりとしたリズムが繰り返されて波間をたゆたう様な雰囲気を表し、その上にメロディーが歌われます。

 

形式的には中間部をはさんで同じメロディーが繰り返される三部形式が多く、どこか物悲しさを含んでいる曲が多いです。


 

≪舟歌の有名なピアノ曲≫

 

ンデルスゾーンの「無言歌」は、ピアノを学習される方ならご存知かと思いますが、彼はその「無言歌」の中で「ヴェニスのゴンドラの歌」を2曲作曲しています。

 

その後、ショパンが最高傑作の「舟歌」を作曲し、チャイコフスキーは小曲集「四季」の中の6月に「舟歌」を作曲しています。

 

ショパンの「舟歌」は2拍子系の8分の6拍子ではなく、より優雅さを出すため4拍子系の8分の12拍子になっていてノクターンに近い曲想です。

 

しかも彼は一度もヴェニスを訪れることなく想像の世界で書きました。さすがショパンですね。

 

チャイコフスキーのは、珍しく4分の4拍子で書かれています。「四季」の中の6月になっていますが、現在の7月に相当するそうです。

 

これを作曲したのが1876年なので、彼は1887年にヴェニスを訪れるのですが、ショパンと同じで想像の世界で書いたのですね。

 

二人の天才、流石ですね。

 

≪ブルグミュラーの舟歌≫

 

もう一つ、これらより有名ではないのですが、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、習い始めて間がない方におすすめの大人ぽい曲があります。

 

皆さんお馴染みのブルグミュラー18の練習曲に入っている「ゴンドラ漕ぎの歌」です。

 

まず全体を見てみると、主題があって展開され、最後に長いコーダがあります。

 

この曲の中で一番技術的に難しい所は、主題8小節の内の後半の4小節が、それまで2声だったのが急にここだけ声部が増え複雑になることです。ここは、半音階に動く対旋律を良く聴き、それぞれの音の長さを正確に弾きましょう。

 

展開部の所は、ベースの付点四分音符で繋がるラインを大切にします。

 

最後のコーダの右手のアルペッジォは1と4の2通りの和音だけなので取り出して部分練習が必要ですね。

 

前のドビッシーのときにも書きましたが、ポリフォニーになった時は、どの音がどこまで伸びてどこで上がるかの指と耳を使った響きのチェックは欠かせません。

 

そして見逃しやすいのが、ほとんどスラーがついているのに、数箇所だけスタッカートのアーティキュレーションになっている所です。

これは、短く切るのではなく、隣の音と繋がらない程度の長さです。

 

一番この曲の舟歌的な要素は左手です。

 

左の伴奏の第1音がスタッカートになっていることです。

これはショパンにも良く出てくるスタッカートですが、ペダルを踏んでも他のレガートの音と区別したタッチが必要です。

 

私てきには、水のはじける様子を表しているのだと思います。

 

とてもきれいなメロディーなので弾いてみてくださいね。

 



≪オペラの有名な劇中歌の「舟歌」≫        

 

もう1つ、誰でも1度は耳にした事がある曲……

 

それは、カステラのCMに使われ運動会でもおなじみの「天国と地獄」を作曲したオッフェンバックのオペラ「ホフマン物語」の第4幕で歌われる劇中歌の「舟歌」です。

 

オッフェンバックはドイツ生まれのフランスで活躍した音楽家で、数多くのオペレッタを作曲して、「シャンゼリゼのモーツァルト」と呼ばれていました。

 

「ホフマン物語」は彼の唯一のオペラ作品で未完に終ったのを、彼の死後に加筆されて上演されたものです。

 

あらすじはホフマンと云う詩人が、まるで違うタイプの3人の女性(機械人形、娼婦、可憐な歌姫)に恋し全て失恋してしまう奇想天外な恋物語です

 

音楽もストーリーも豪華絢爛、荒唐無稽なオペラですので、機会があったら、是非見てくださいね。

 

この有名な舟歌はヴェネツィアの場面で歌われ、「美しい夜、おお恋の夜」というフランス語の題名が付いています

 

ソプラノとメゾソプラノが1オクターブ違いのユニゾンで二重唱するアリアです。

 

このメロディーは彼の唯一のドイツ語のオペレッタ「ラインの妖精」から流用されたものですが、”世界で最も人気のあるメロディーの一つ”と言われています。


 

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