『音楽と美術の共通点 その1』
今回は、フランス印象派における、音楽と美術の共通点について書きたいと思います。
フランス印象派の代表選手といえば、ドビュッシーとラヴェルですね。
この2人の音楽は、
それまでの和音進行、メロディーと伴奏、ソナタ形式の様なはっきりした輪郭線は存在しなく、曖昧で捕らえ所がないのが特徴です。
これはまさしく、美術においてマネ・モネ・ルノアール・セザンヌなどの印象派の画家達が目指した画風に通じています。
印象派の絵画は、短い断続的な筆跡を残して色と色を重ねていき、近くで見たらなんだか肌色が青く塗られていたりして、よく分からない絵でも遠くから眺めれば、光の陰影が反映されています。
それまでの写実的な絵に比べたら、独特の雰囲気が漂っています。
どうしてそのような画法が編み出されたのか・・・。
大きな原因の一つは、
持ち歩き用の化学合成顔料を使ったチューブ入りの絵の具セットが考案されたこと!
それまでは、絵は室内だけで描かれていたのが、戸外で絵を仕上げる事が可能になったのです。
風景画は、その頃から盛んに描かれるようになります
外には太陽の光がさんさんと降り注ぎ、時間によって同じ風景でも、色彩が微妙に変化するのを印象派の画家達は見逃しませんでした。
例えば
セザンヌは、故郷のエキサン・プロヴァンスの風景を時間の移り変わりに合わせて、サント・ヴィクトワール山や同じ題材を何枚も描いています。
そして、モネはルーアンの大聖堂の目の前に部屋を借り、何ヶ月にも渡って、大聖堂の時間による光の変化を何枚も書き分けています。
この様な2人の画家が情熱を傾けて止まない探究心をくすぐる外の世界との対話。
一方、音楽の世界では、ドビュッシーやラヴェルも、その題材の雰囲気や香りまで漂ってくるかのような空気感を、音の組み合わせで織りなすあやで、演奏者にインスピレーションを与えています。
例えば
ドビュッシーのピアノ曲、前奏曲第1集「音とかおりは夕暮れの大気に漂う」や第2集「月の光の降りそそぐ謁見のテラス」などは音楽から、香りや空気感までがひしひしと伝わってきます。
そして、情景描写音楽で良く弾かれるのはラヴェルのピアノ曲「水の戯れ」ですね。
パリのオルセー美術館に行けば、沢山の印象派の作品を見ることができます。
私も、何度も訪れていますが、毎回行く度に、新しい発見があり、一日中居ても飽きないくらい奥が深いのです。
『音楽と美術における共通点 その2』
その頃パリでは、ベルエポックの時代でアール・ヌーボー(新しい芸術の意味)流行っていて、5回も万博が開催されました。
ちなみに、第4回の目玉が、あのエッフェル塔です。
日本のパビリオンの影響もあってか、ジャポニズムという日本文化のブームがありました。
モネやドガが、北斎の浮世絵を沢山収集して、構図を模倣した作品を描いたのは有名な話ですね。
ドビュッシーはというと、その頃接したガムラン音楽に興味を持ち、自分の音楽の中にその響きを反映しています。
その最たるものは、版画の「塔」にあらわれています。
また一方では、ラヴェルは、昔のバロックの音楽に憧れ「クープランの墓」や「古風なメヌエット」など回顧主義的な音楽も作曲し、ドビュッシーも「ベルガマスク組曲」で古典組曲スタイルで作曲しています。
そして、絵画からインスピレーションを受けて作曲された作品といえば・・・・
ドビュッシーの「喜びの島」というピアノ曲が有名ですね。
この曲は、ルーブル美術館にあるヴァトーが1717年に描いた「シテール島の巡礼(シテール島への船出)」に触発され作曲したと言われているのは有名な話ですね。
シテール島とはエーゲ海、クレタ島の北西にあり、愛の女神ヴィーナスの島とされています。
色々例を挙げて書いてきましたが、その曲が作曲された時の時代背景や文化的なこと、美術や建築など多くのことを理解したうえで演奏するのと、単に楽譜からの情報だけで解釈するのとでは、出来上がった音楽に差が出るのは当然の事ですね。
私も日ごろのレッスンでは、生徒さんと、西洋美術のお話をしたり、ガラス工芸をお見せしたりしながら、幅広いアプローチで曲の理解を深めていただけるようにしています。
西洋音楽を勉強する私達にとっていつも、音楽以外のことにも興味を持って、アンテナを高く張って色々な情報を得、自分のイメージ力を磨く努力は必要だと言えるでしょう。